金沢地方裁判所 昭和34年(行)3号 判決 1966年2月25日
原告 阿部登
外三二名(別紙第一目録のとおり)
右訴訟代理人弁護士 梨木作次郎
右訴訟復代理人弁護士 木村和夫
同 豊田誠
被告 日本国有鉄道
右代表者総裁 石田礼助
右訴訟代理人弁護士 田中治彦
同 環昌一
右訴訟代理人職員 小沢久
同 広川潔
主文
原告らの請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告ら
「(一)被告が原告らに対し別紙第一目録記載の免職処分年月日付を以てなした解雇は、いずれも無効であることを確認する。
(二)被告は、原告らに対し、それぞれ別紙第二目録記載の金員ならびに本訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び第二項につき保証を条件とする仮執行の宣言
二、被告
主文同旨の判決
第二、原告らの請求原因
一、原告らの地位
原告らは、いずれも、解雇されるまで、被告日本国有鉄道(以下国鉄と略称する。)の職員であった。原告らの国鉄職員としての地位およびその国鉄労働組合における地位は、別紙第三目録記載のとおりである。
二、免職処分の経過
(一)被告は、別紙第一目録記載の免職年月日日付を以て、それぞれ原告らを解雇した。
(二)右解雇につき、被告らの理由とするところは、昭和二四年六月一日より施行された行政機関職員定員法(以下定員法と略称する。)の昭和二四年法律第一二六号附則(以下附則と略称する。)第八項にもとづき、被告は、原告らをそれぞれ免職するというにあるもののようである。しかし右解雇は左の理由により無効である。
(1)定員法は行政官庁ならびに外局を含む行政機関の職員に適用される法律であって、行政機関ではない法人の職員に対しては、適用すべきものではないことが明らかであるところ、国鉄は日本国有鉄道法(以下国鉄法と略称する。)施行以来公法上の法人となり(国鉄法第三条参照)、国の行政機関ではなくなったから、同職員は、行政機関の職員ではなく、従って定員法の適用を受けないものである。本件解雇は、被告が右のように適用すべきでない法律を適用してなしたのであるから無効である。
(2)仮に右主張が理由がないとしても、定員法附則第八、九項の各規定は、憲法第二八条の団体交渉権を侵害するものであるから無効である。従って無効の法規に基く本件解雇は無効である。
即ち定員法附則第八項には、国鉄総裁が定員法に基きその職員を整理する場合において、その職員の意に反して降職または免職することができる旨の規定があり、それに対して、同法附則第九項は、公共企業体労働関係法第八条第二項(団体交渉)および第一二条(苦情処理)の適用を排除している。右のように、勤労者である国鉄職員に対し、憲法第二八条の保障する団体行動権を完全に奪い去って、全く一方的に勤労者に不利益な処分をなすことを認めた定員法附則第八、九項は、憲法第二八条に違反し、従って憲法第九八条第一項により無効である。
(3)仮に右主張が理由がないとしても、被告が原告らを免職した理由は、単に名を借りたに過ぎず、真実は次に述べるように原告らが日本共産党員またはその支持者であること、もしくは原告らが正当な労働組合活動をしたことにあるのであるから、本件解雇は、前者に関しては憲法第一四条、第一九条、労働基準法第三条に違反し、後者は憲法第二一条、第二八条、労働組合法第七条第一号に違反し、私法上無効な処分である。
即ち、定員法の立法理由として政府の公表するところによると、当時再建途上にあるわが国に必須な経済政策を推進するために、同法を施行して国家財政上の必要にこたえるとのことであったが、実際は国家機関から、いわゆる「レッド・パージ」をなすことにあったのである。ところが原告らはいずれも本件解雇当時、日本共産党員であるか、または同党を支持するものであった。従って本件解雇は、原告らが日本共産党員または、その支持者であることを真実の理由としてなされた無効のものである。他面原告らはいずれも別紙第三目録記載のように本件解雇処分当時国鉄労働組合において相当重要な役割、地位を有しており、また国鉄労働組合の組合員として、同労働組合の正当な活動にもっとも熱心に従事していた。従って本件解雇処分はいずれも原告らが正当な労働組合運動をしたことを真実の理由としてなされた不当労働行為であるから無効である。
ところで、定員法に基く国鉄職員の降職及び免職の基準を定めた「昭和二四年法律第一二六号による日本国有鉄道職員の降職及び免職の基準に関する準則」(以下準則と略称する。)第二条は、「職員の降職及び免職は所属長がその者の人格、知識、肉体的適応性並びに業務に対する熟練及び協力の程度等その職種に必要な資格要件について差異を認め難い者の間においてはこの準則の第三条乃至第九条及び第一二条により定められたその者の国有鉄道における勤務の長さ(以下先任順位という)を基準としてその劣位の者から順次これを行う」と定めている。原告らは、以下各人について述べるごとく、人格、知識、肉体的適応性、業務に対する熟練及び協力の程度等その職種に必要な資格要件の優劣において免職されなかったものに決して劣るものではなく、むしろ優れていた。以下原告ら各個人別の事情につき詳述する。
≪事実中略≫
被告の原告に対する免職処分はレッド・パージであり無効である。
三、原告らが被告から免職の通知を受けた当時のそれぞれの賃金は、別紙第二目録記載のとおりで、爾来被告は、原告に対し、賃金の支払をしていない。
四、以上の次第であるから、被告の原告らに対する本件解雇は無効であるから、その確認を求めるとともに、原告らに対し未払賃料の一部である別紙第二目録記載の昭和三二年七月一日から昭和三三年六月三〇日までの賃金の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。
第三、被告の答弁
一、請求原因一の事実中、原告らの国鉄労働組合における地位は不知、その余の事実は認める。
二、請求原因二の事実中、原告らをその主張の日付を以て、定員法附則第八項に基いて、それぞれ免職したことは認める。原告らの主張する本件解雇処分の無効事由はいずれもこれを争う。
三、請求原因三の事実は認める(但し、原告米林清は、免職当時の一ヶ月の賃金は五、四四四円である。)。
第四、被告の主張
一、定員法附則第七項ないし第九項には、国鉄総裁は職員をその意に反して免、降職することができる旨定められているのであるから、国鉄総裁が定員法を適用して原告らを免職したことは適用すべきでない法律を適用したことにはならない。
即ち、本件免職処分は、日本国有鉄道総裁が定員法附則第八項に基き、公法上の処分としてなしたものである。国鉄の法律的性質を考えてみると、国鉄は、従前純然たる国家の行政機関によって運営せられてきた鉄道その他の事業を経営し、能率的な運営によりこれを発展せしめ、もって公共の福祉を増進することを目的として(国鉄法一条)設立せられた公法上の法人(同二条)であって、一般の行政機関とは異なり国家に対し自主性を有する点もあるが、その資本金は全額政府の出資にかかり、その公共性は極めて高度のものであるから、国家はこれに対してかなり広汎な統制権を保有している。すなわち国鉄は運輸大臣の監督下におかれ(国鉄法五二条以下)、その業務の運営は運輸大臣の任命する監査委員会の監査に服し(同一四条、同一九条)その総裁は内閣が任命し(同一九条)、その予算は運輸大臣及び大蔵大臣の検討及び調整を経て国会に提出され、国の予算の議決の例によって国会において議決され(同三九条の二以下)、会計検査院が検査する(同五〇条)のである。国鉄の職員も国鉄法の施行とともに、運輸省職員として国家に対し特別権力関係に立っていた従来の地位をある程度脱却し、国鉄と私法関係に立つに至った点があるとはいえ、なおその身分は一般の営利会社の職員と全く同様のものとなったのではなく、職員は法令により公務に従事する者とみなされ(同三四条一項)、職務の遂行については、誠実に法令、業務規定に従い全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない(同三二条)旨、国家公務員と同様の規定がおかれ、一定の事由があるときは、その意に反して、降職、免職、休職にされ(同二九条、同三〇条)、一定の事由があるときは懲戒処分を受ける(同三一条)等公務員的性格を保有し、また労働者災害補償保険法の適用については、国鉄の事業は、国の直営事業とみなされ(同六〇条)、失業保険法等の関係においては、職員は国に使用される者とみなされる(同六一条)、更に公共企業体等労働関係法一七条によれば、国鉄職員は一切の争議行為を禁止されている。このように国鉄職員の身分は、なお、種々の点において公務員的取扱を受け、従って公法的側面を有している。元来国家は国鉄のような公共企業体の職員の身分を純然たる私法的なものにしなければならぬという法理はなく、その職員を特別権力関係におく規定は、これを国鉄法の中に設けても、または国鉄法以外の法律たる定員法の中に設けても、少しも差支えないことはいうまでもない。国鉄法の中にも、その職員を特別権力関係におく規定があるし、更に定員法は、昭和二四年六月一日、すなわち国鉄法と同時に施行されたものであるから、運輸省の職員は、国鉄法の施行により国鉄職員に移行し、それと同時に当初から定員法の制約を受けているのである。従って国鉄職員が定員法の目的とする人員整理の関係において「行政機関」の「職員」と同様に取扱われ、同職員を特別権力関係である公法的側面から定員法一条の「行政機関」が「職員」に対して行う免職に準じて、附則七乃至九項に基き遂次整理した国鉄総裁の本件免職処分は行政庁の行政処分に準ずるものと目するのが相当である。
二、定員法は合憲である。
原告らは、定員法は勤労者である国鉄職員に対し、憲法第二八条の保障する団体行動権を完全に奪い、一方的に勤労者に不利益な処分をなすことを認めたものであるから、同法は憲法第二八条に違反し、無効で、これに基く本件免職処分も無効である旨を主張する。
しかし、憲法第二八条の団体行動権も公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ないところであって、昭和二四年五月三一日法律第一二六号をもって公布になった定員法に基く人員整理も、当時敗戦後四年占領下にあって、深刻化の一途を辿る我が国家財政を再建し、支出の抑制による予算の均衡化を図り、経済の崩壊を防止しようとするいわゆる経済九原則の急速実施の一環として断行せられたものであり、その成否如何は、方に一億国民の死活に関するものであり、公共の福祉に関することこれより大なるはないというも過言ではなく、日本経済再建のためやむを得ない措置であって、この意味において定員法は憲法第一三条に則ったものであり、これをもって憲法第二八条に反する違憲立法と断ずることはできないのである。
三、次に原告らは、被告のなした本件免職処分は定員法適用に名をかりたものに過ぎず、同法に基く国鉄職員の降職及び免職の基準を定めた前記準則の整理基準に該当しない原告らを免職したもので、真実は原告らが日本共産党員またはその支持者であること、もしくは原告らが正当な労働組合活動をしたことを理由としてなされた私法上無効の処分であると主張するが、その主張の失当なことは次のとおりである。
(1)即ち、定員法は同法附則第七項ないし第九項において、国鉄職員の定員を定め、昭和二四年九月三〇日までに定員を超過する人員の整理されるべきこと、及びその整理の実施に際しては、国鉄の総裁はその職員をその意に反して免職しうる旨、並びに公共企業体労働関係法第八条第二項第一九条の適用を排除することを定めているが、これらの規定の趣旨とするところは、国鉄に対して職員を整理すべき義務を課するとともに、その整理の実施については、一定の期間と員数内における職員の免職につき国鉄法第二九条の規定による職員の身分保障の制約を解き、職員の整理が簡易迅速にできるよう国鉄の総裁に完全な自由裁量による免職の権限を附与したものと解することができる。このことは定員法が、職員の免職について何らの基準を定めず、又免職の基準を設けるべきことを定めていないことからも明らかなところである。従って、国鉄総裁は、その職員を定員法によって整理するに当っては、国鉄職員たる身分を有する者である以上、その者が国鉄労働組合の役員であると否とにかかわらず、その独自の見解に従って、免職させることが適当であるか否かを判断して処分することができ、この処分は、その裁量が適当でないことについて政府に対する政治上の責任の有無は別として、法律上の判断の対象にはならないものである。
(2)又、本件免職処分の実施は、定員法に基いてなされたものであるが、これは定員法附則第七項の規定により、国鉄が整理すべき定員超過の職員は、数万名の多数に上り、且つ整理の時間的制約もあったため、同第八項の規定により整理実施の権限を附与された国鉄の総裁としては、この不幸な事態に対し、国鉄としても経営自体になるべくマイナスとならないよう、又一方職員の立場からいってもできる限り損害が少なく、且つ公正な方法で、定員法による整理が簡易迅速に実施できるよう企図したのである。而して総裁としては直接(国鉄本社の総裁の直接の補助職員の補佐によって)右の趣旨に合うよう具体的な人選を行うことが事実上不可能だったので、これを全国各地に在る下部職員たる各所属長をして事実上選定させる外はなかった。従ってこの趣旨をこれら各所属長に徹底させると共に、一般職員にも公表し、その公正な実施を期し、一般職員の理解と協力を求める方法として示したのが、前記準則なのである。
以上によって明らかなとおり、準則は、国鉄総裁が定員法に基く人員整理を合理的に行うため、定員法によって附与された自由裁量権行使のための内部的な整理基準を示したに過ぎないものであって、何ら法的効力を有するものではないのである。而して各所属長は、この準則の定める整理基準に従って人選を進めたわけであるが、職員が準則の定める整理基準に該当するか否かの認定は、それが適当でないことについての総裁に対する内部責任の有無は別として、本件免職の効力には何ら影響するものではないわけである。
(3)既に原告らに対する本件免職処分が行政庁の行政処分と同様に取扱うべきものである以上、特定の公法上の処分が権限ある行政庁、または裁判所による取消をまつまでもなく当然無効とせられるには、処分に内在する瑕疵が外観上明白でかつ重大な場合であることを要すると解すべきである。しかるに本件免職処分には重大にしてかつ明白なる瑕疵がないから、これを当然無効とはいい得ない。
又、前記準則に該当するか否かが、本件免職処分に何らかの影響を及ぼすと解しても、それは右準則に明白に背反する処分が取消さるべき処分と解せられる場合がありうるというのがせいぜいであって、これをもって行政処分と同様に取扱うべき本件処分の当然無効を招来するものとは解し難い。
第五、証拠関係≪省略≫
理由
一、原告らが国鉄の職員であったこと、被告総裁が別紙第一目録記載の免職年月日日付を以て、原告らを定員法により免職するとの理由で解雇したことは、当事者間に争がない。
二、原告らは国鉄の職員に対しては定員法が適用されないところ、本件解雇は右適用すべきでない法律を適用してなされたものであるから無効である旨主張するので判断する。
定員法附則第七項ないし第九項は、国鉄職員の定員を定め、昭和二四年九月三〇日までに所定人員(五〇六、七三四人)を超過する人員の整理されるべきこと、及びその整理に際して国鉄総裁は職員の意思に反して免降職することができること並びに公共企業体労働関係法第八条第二項、第一九条の適用を排除することを規定している。この定員法は、昭和二四年五月三一日に公布され、翌六月一日国鉄法と同時に施行されたものであるから、ここに人員整理の対象とされている国鉄職員とは、定員法の公布された昭和二四年五月三一日当時は運輸省の職員で国鉄法の施行とともに国鉄に引継がれるべき職員である。この定員法が制定されたゆえんは、当時我が国においていわゆる経済九原則実施の一環として国家予算の均衡をはかるため、行政機関の人員整理もやむをえない必要措置とされたためであって、各省職員とともに運輸省職員も勿論その枠内にあったのである。而して、運輸省で運営して来た鉄道事業が国鉄に引継がれても、国鉄の予算は国家の予算と同様に扱われ、国家財政と直接の関聯性を有している以上、人員整理の必要という点で別段差異があるわけではない。従って、前記のごとく定員法附則で国鉄職員整理の規定を設けたからといって、公共企業体たる国鉄の本質と矛盾するところはなく、他に国鉄職員に対し定員法の適用を排除すべき特段の理由も見出し難いので、国鉄総裁が定員法を適用して原告らを免職したことは、何ら適用すべからざる法律を適用したものということはできない。従って原告らの前記主張は、採用できない。
三、次に原告らは、定員法附則第八、九項の各規定は憲法第二八条の団体交渉権を侵害するものであるから無効であり、右無効の法規に基く本件解雇は、無効である旨主張するので判断する。
およそ憲法第二八条が保障する勤労者の団体交渉権も公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ないと解すべきところ、定員法に基く人員整理は、敗戦後深刻化の一途を辿る我が国の国家財政を再建し、支出の抑制による予算の均衡化を図り、インフレーションによる日本経済の崩壊を防止すべく、連合国軍最高司令部の慫慂にかかるいわゆる経済九原則の急速実施の一環として、人件費を削減し、これにより行政機構を合理化するため実施されたものであることは公知の事実である。これによれば右人員整理が結局公共の福祉につながるものというべきであり、従って大量の人員整理を極めて短期間に実施するため定員法附則第八、九項によって国鉄職員の団体交渉権が制限を受けても、これを以て違憲無効ということはできない(最高裁昭和二九年九月一五日大法廷判決参照)。よって原告らの前記主張は採用に由ない。
四、最後に原告らは、本件免職処分は、定員法適用に名をかりたものに過ぎず、同法に基く国鉄職員の降職及び免職の基準を定めた準則の基準に該当しない原告らを免職したものであって、真実は原告らが日本共産党員またはその支持者であること、もしくは原告らが正当な労働組合活動をしたことを理由としてなされたいわゆるレッドパージないし不当労働行為であり、憲法第一四条、第一九条、労働基準法第三条、憲法第二一条、第二八条、労働組合法第七条第一号に違反する私法上無効な処分である旨主張するので判断する。
そこで先づ定員法による国鉄職員の免職に関する法律関係につき考察する。
前叙のとおり定員法附則第七項ないし第九項によると、国鉄職員は、その数が昭和二四年一〇月一日において五〇六、七三四人を超えないように同年九月三〇日までの間に逐次整理されるものであって、右整理を実施するにあたっては国鉄総裁はその職員をその意に反して降職又は免職することができ、且つこの場合には、公労法第八条第二項に規定する団体交渉も許されず、同法第一九条(但し改正前のもの)に定める苦情処理共同調整会議に苦情を申出ることもできない旨定められていたのであり、右のごとく団体交渉が許されない以上、仲裁委員会に仲裁を求めることもできない結果となること明らかである。これを要するに、国鉄総裁は職員に対して優越した支配的地位において一方的に免、降職することができるのであって、かかる免、降職は行政庁の行政処分と同様に取扱うのが相当であり(前掲の最高裁判決参照)、且つ定員法附則第七項ないし第九項には、整理の基準なるものは全く規定されていないから、何人を免職するかは本来国鉄総裁の自由裁量に委ねられたものというべきである。もっとも≪証拠省略≫によると、国鉄総裁は、定員法による国鉄職員の整理を実施するに当り、その基準に関する準則を定め、鉄道公報号外にこれを掲示したこと、右準則の概要は、所属長が職員の人格、知識、肉体的適応性並びに業務に対する熟練及び協力の程度等その職種に必要な資格要件の優劣を認定し、その資格要件について差異を認め難い者の間においては、その者の国有鉄道における勤務の長さ(いわゆる先任順位と称されるものである。)を基準としてその劣位の者から順次降免職を行うというものであったこと、所属長は、右準則に則り免職せられるべき職員の選定を行ったものであることが認められ、右事実によれば国鉄総裁は右準則なる法的効力のない内部的な整理事務処理基準を定め、これに則り定員法によって附与された一方的な免職処分を実施し、以って可及的にその自由裁量権の適正な行使を確保しようとしたものと解されるのである。
しかしながら、それはともあれ、既に説示したとおり、原告らに対する本件免職処分が行政庁の行政処分就中いわゆる自由裁量処分と同様に取扱うべきものである以上、仮に原告ら主張のように準則適用上、前記整理基準該当事実の認定に過誤があったとか、本件免職処分の真意が日本共産党員またはその支持者を排斥することないし原告らが正当な労働組合活動をしたことに対し不利益な処遇をなすことにあったとしても、それらを以って本件免職処分を当然無効ならしめる明白且つ重大な瑕疵ということはできず、まして本件免職処分を私法上の行為としてその無効確認を請求することは許されないこと明らかである。従って原告らの前記主張は採用し難い。
五、さすれば、原告らの免職処分の無効確認を求める部分はその理由がなく、従ってその無効なることを前提とする金員の支払を求める部分も理由がないから、原告らの本訴請求はすべて失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 牧野進 裁判官 木村幸男 高橋爽一郎)
<以下省略>